扇山城

 

扇山城縄張図(国土地理院の電子地形図25000)

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洲前城縄張図(国土地理院の電子地形図25000)

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 和歌山県みなべ町西岩代の集落の背後(西)の国土地理院の標高194.4mの三角点のある山頂から南に下がったピークの東の先端が扇山城です。

扇山城の現状は約30m×15mの範囲を幅1m超さないごく薄い堀?溝(深さ10cm前後)で囲んでいました。

東と南が斜面にかかっており、南東角、北東角には溝及びその外側の土塁状の高まりが確認できます。特に角部では根固めの為と思われる石が見られました。

北側の溝の北西角から10mの所で内側に約1m折れていますが意味不明です。

堀は他の箇所では不明確な痕跡程度しか残っていないところもあり、行く前にはもう少し残っていると思っていました。

扇山城の第一印象は本当に城かという疑問です。

現状見られる程度の溝幅と郭内部と溝の外の高さが同じでは、防御の為に全く意味の無いように私は思いました。

本来郭内部が高くその切岸の根元が空堀状に掘り込まれているのが、どんなに小規模な城及び砦でも原則と私は考えています。

城郭でない場合の例として和歌山城郭研究14号の白石博則氏の解説で、耕作に伴うものや、動物の侵入、逃亡を防ぐ囲い込み等の例をあげて検討されていますが、私も西に平坦地が続くのにもかかわらず小学校のプール程度の面積では、耕作や動物為の物では意味が無いと思います。

他に宗教施設考えましたがその様な痕跡や石造物も見当たりません。

また雨乞い等の祭祀の際の結界を思い浮かべましたがここまで行くと私には知識が無く分かりません。

そこで他の城郭のなかで同様に空堀が遺構の中心になる城郭をと探すと、岡山県津山市の院庄の北に聳える嵯峨山の東に張り出す尾根上にある洲前城です。

ただし私は基本的には洲前城は城跡と判断します。その根拠は嵯峨山に接続する尾根の根元にある堀切の存在です。

しかしながら遺構本体の空堀と言うか溝には甚だ疑問がわくものです。

その最大な点は、城の立地する場所で南に下がった斜面に溝が掘られていることです。

北の部分は尾根の狭い稜線にありますが、東西の溝は斜面を下っています。

南側は北に比べ5m以上低く、下からでも容易に内部を見透かすことが出来、全く防備には役に立たないものです。

しかも扇山城で検討した他の目的、動物の侵入、逃亡を防ぐ囲い込み等にも役に立たちません。

溝の現状は、幅平均0,5m、深さ0.2~0,3m、最も深い虎口周辺で0,5mです。南側の溝は、2か所で折れていますが防御的には意味の無い物です。

溝の外側には溝を掘った土を盛って土塁状にしていますが高さは痕跡程度です。しかしながら土塁は必ずしも外側ばかりだけで無く、虎口付近及び尾根上では内側に土塁状の物があるところもあります。

土塁の切れ目は3か所有り本来の虎口は南西角で、他は後世の物と私は考えます。

以上の様な洲前城ですが、その主な構成要素が溝(堀)でありながらそれが防御には全く意味を持たないもので、どのような意図のもとに築城された物か私にはわかりません。「美作国の山城」の山形省吾氏は他の資料で嵯峨山の南の尾根上にも同様の城郭遺“洲前南城”を報告されていますが、現地を確認した結果、岡山GISの遺跡地図で高塚古墳とされているものを誤認されたと私は考えます。

扇山城を洲前城と比較すると周辺に堀切等の施設を持たない等、城としての最小限の構成要素を持たないものと私は考えました。しかし私には明確な結論を出すことが出来ませんでした。

むかし兵庫県三木市の三木城に対する羽柴秀吉方の付城加佐山城(現在山陽自動車道路三木サービスエリア)の発掘調査の現場を見たとき、主郭を囲む土塁の幅(おそらく基底部)は数mありますが高さは高いところでも0.5m程度しかなく、外側を囲む空堀も幅0.5m、深さは痕跡程度で現地も狭い尾根上でトレンチの状況を見ても表土の厚みも極わずかで四百数十年の月日で浸食されたものが発掘で現れたのが前記の状況だったと思われます。

とすると扇山城の現状も、郭内部や土塁等の高い部分が浸食されたものが現在見られるものかもしれないと妄想が湧きました。

 

扇山城写真

西より

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南側土塁

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北東角

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洲崎城写真

空堀南折れ部

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空堀

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堀切

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  • 参考文献

    和歌山城郭調査研究会

     和歌山城郭研究 第14号 2015年4月発行

    第25回国民文化祭津山市実行委員会

     美作国の山城  平成22年10月30日発行

    兵庫県教育委員会

     兵庫県文化財調査報告書 第144冊 平成7年3月31日発行

     加佐山城跡・慈眼寺山城跡

     山陽自動車建設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書 17

    岡山県文化財保護協会

     岡山県中世城館跡総合調査報告書 令和2年2月28日発行

     第3冊 美作編